AI研修の助成金で対象外になる「うまい話」|謝礼・返金・セット・価格差の見分け方
研修会社の「うまい話」を受け取ると、助成金の対象外になります
AI研修に使える人材開発支援助成金(厚生労働省の制度で、研修費と受講中の給与の一部を国が助成する)には、研修費を会社が全額自分で負担するという条件があります。研修会社やその関係者から、受講料の返金・謝礼・協力金・無料のツールなど負担を軽くするお金や便宜を受け取る(受け取る予定がある場合も含む)と、その研修の経費助成は全額が対象外になります。
受け取ったのに「全額負担した」として申請すれば、不正受給として扱われます。会社は返還に加えて、返還額の2割を上乗せする違約金と年3%の延滞金を求められ、5年間は助成金を受けられず、会社名が公表されることがあります。研修会社も、不正に関与していれば連帯して債務を負い、名称が公表されます。
この記事は、研修を頼む側が不正に巻き込まれないための確認項目と、断り方・相談先をまとめます。詳細版パンフレット(事業展開等リスキリング支援コース・令和8年8月3日版)、支給要領(厚労省が定める支給のルール)、リーフレット、e-Gov の法令を、2026年10月9日に確認しました。対象になる研修の型は8月改正の記事で扱いました。実際の可否は、労働局(厚労省の地方機関)が判断します。
目次
ルールの中身:研修費は会社が全額を負担する
研修費の助成(経費助成)を受けるには、研修費を支給申請(研修のあとに助成金を請求する手続き)までに会社が全て負担していることが必須です(支給要領0501、パンフレット p.33。「p.」は紙面に印刷されたページ番号です)。たとえるなら、出張の宿泊費を精算するのに、宿から一部を返金されていながら領収書の全額を請求するようなものです。対象外とされる範囲は広く、次のとおりです。
- 受ける予定がある場合も:研修会社(資料では教育訓練機関)から、負担額を実質的に減らす金銭(返金を含む)を受けた、または受ける予定がある場合です
- 関連する者も含む:資本関係のある会社、代表者が同じ会社、業務上の関係がある会社など。法人か個人かは問われません
- 金銭に限らない:クーポン、貸付、他の支払いの相殺・免除、製品やサービスの提供などの経済的な便宜も含みます
- 名目は問われない:営業協力費や協賛金でも、提案の前後どちらでも対象外です
対象外になるのは、その研修の経費助成の全額です。一部の返金でも全額が対象外になります。賃金助成(受講中の給与の分)は、他の要件を満たせば残ると支給要領に書かれていますが、不正と判断されれば申請そのものが不支給や取消しになります。研修費は先に全額払う前提です(立て替えの記事)。
黙っていれば分からない仕組みでもありません。計画届(研修の前に労働局へ出す書類)には、契約までの経緯と、負担軽減の提案や金銭の提供の有無を答える欄があります。負担軽減の説明資料(受講案内を除く)をもらえば提出を求められ、支給申請では説明を受けた資料一式の写しも出します(パンフレット p.42・p.46・p.51)。
持ちかけられやすい7つの形
資料の事例を、耳にする言い回しに直しました。「」には言い換えを含みます。
| 形 | 持ちかけられ方の例 | 資料での扱い |
|---|---|---|
| 後から返金 | 「後からキャッシュバックがあります」 | 返金は負担の実質的な減額。受ける予定の段階でも対象外 |
| 感想・インタビューの謝礼 | 「広告協力してくれたら費用負担なし」 | 広告宣伝業務の対価としての金銭は対象外 |
| 営業協力金・協賛金 | 「紹介した会社に営業協力すれば、協力金を研修費に充てられます」 | 名目も、提案の前後も問わず対象外(p.21) |
| 別契約での入金 | 「別に業務委託を結べば、協力金が入ります」 | 研修に付随する契約に基づく金銭は対象外。不正受給の事例(リーフレット) |
| ツールのセット | 「AI研修とAIツール導入をセットで」「研修を実施すれば、無料でシステムを導入します」 | ツール費用は対象経費ではない(p.21)。無料提供は経済的な便宜 |
| 貸付・ギフト券 | 「紹介する事業者が受講料分を貸します」「契約特典でギフト券を進呈します」 | 貸付やクーポンも「入金」に含まれる(p.33)。不正受給の事例(リーフレット) |
| 値段が2つある | 「助成金を使うなら30万円、使わないなら10万円」「不支給なら20万円を返金します」 | 助成金の有無だけで生じた差額は対象外(p.33) |
厚労省は、受講料が「実質無料」になるうえ支払った額以上の利益が出る、という営業にも注意を促しています。言い換えれば、払った会社が得をする話です。助成金は払った訓練経費の一部を助成するもので、利益が出ることは仕組み上あり得ない、とパンフレット p.21 は書いています。
謝礼について、支給要領は、広告宣伝業務の対価として金銭を受け取ったとき、と書き、金額の大小を条件にしていません。令和8年8月3日版のリーフレットには「不相当な金銭」という書き方もありますが、確認した範囲の資料に線引きは書かれていません。受け取る前に、労働局へ確認します。
名目を変えた話にも当てはまります
同じ研修に値段が2つある
助成金を使うかどうかだけで価格に差をつけると、その差額は対象外です。パンフレット p.33 の例では、助成金を使う会社が30万円、使わない会社が10万円なら、差額の20万円は支給対象になりません。助成金が出なかったときに20万円を返す約束も、同じ扱いです。
この記事の仮の計算では、対象経費は10万円になり、中小企業の経費助成率75%で7万5,000円です。会員証を見せた人にだけ3倍の値段を請求する店のようなものです。
「申請は無料で全部代行します」
申請書の作成や提出代行を、社会保険労務士(社労士。労働・社会保険の手続きの専門家)でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て業として行うことは、社会保険労務士法27条で禁じられています。他の法律に別段の定めがある場合などは例外です。パンフレット p.21 は、「無償」とうたっても受講料に代行の対価が含まれていると評価されれば問題になると注意しています。
受け取ると、会社と研修会社に何が起きるか
まず経費助成が外れる(仮の例)
受講料12万円(1人・仮)の研修で、研修会社が「謝礼として3万円を後で払います」と持ちかけたとします。受け取ると、中小企業の経費助成率75%で出るはずだった9万円(仮)が全額対象外です。受け取る3万円より外れる9万円のほうが大きく、差し引き6万円(仮)少なくなります。支給は労働局の審査で決まります。
隠して申請すると、不正受給になる
不正受給とは、偽りその他不正の行為(故意に申請書へ虚偽を書くなど)で、本来受けられない助成金を受ける、または受けようとすることです(助成金に共通するルールを定めた共通要領0205)。協力金を受け取りつつ「全額負担した」として申請した例を、リーフレットは不正受給の事例に挙げています。
申請書の作成を従業員や代理人に任せても、責任は会社に残ります。代理人などの偽りの行為は、会社が行ったものとみなされます(共通要領0205)。
会社に起きること
| 起きること | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 返還 | 支給済みの全部または一部を返す | 共通要領0801 |
| 違約金 | 返還額の2割を上乗せ | パンフレット p.8 |
| 延滞金 | 年3%(不正に受け取った日の翌日から返すまでの期間の利息にあたる) | 共通要領0205 |
| 5年間の不支給 | 不支給や取消しの日から5年間、人材開発支援助成金を含む雇用関係助成金が受けられない | 共通要領0702 |
| 公表 | 会社名・代表者・返還を命じた額・不正の内容など。5年間 | 支給要領1002 |
| 刑事告訴 | 悪質な場合。刑法246条の詐欺は10年以下の拘禁刑(従来の懲役・禁錮に代わる刑) | パンフレット p.8、e-Gov |
2026年10月9日確認。返還・違約金・公表の根拠は、雇用保険法の本体ではなく、省令(法律に基づく規則)の雇用保険法施行規則の第140条の3・第140条の4です。違約金は省令が「2割以下」、支給要領とパンフレットが「2割」と書きます。
公表には、令和8年(2026年)8月3日以降の支給申請から特例が新しく設けられました。取消額と不支給になった申請額の合計が100万円以上、または特に重大・悪質なときが対象で、支給前も含みます。ただし、労働局の調査より前に自分から申告(自主申告)し、受給額・違約金・延滞金を速やかに返したとき、または受給前のときは、原則として公表されません(パンフレット p.9、支給要領1002)。
研修会社に起きること
研修会社は、支給申請のときに「支給申請承諾書(訓練実施者)」(様式第12号。訓練実施者は研修を行う会社)への承諾を求められます。審査への協力に加え、不正受給に関与したときは、①申請した会社と連帯して債務を負う(請求された額を直ちに支払う義務。連帯保証人のようなもの)、②名称などが公表される、③不支給や取消しの日から5年間、その研修会社の訓練は助成の対象にならない、という取扱いです(パンフレット p.8・p.21)。
研修会社が連帯しても、会社の責任はなくなりません。研修会社の不正が計画届を出す日までに(当日を含む)明らかになっていれば、その研修は対象外です(パンフレット p.8)。
公表は、神奈川でも実際に出ています
神奈川労働局のページ「不正受給による公表事案」(10月9日確認)には、不正受給を行った会社など(事業主等、令和3〜8年度)、関与した社会保険労務士・代理人、関与した訓練実施者の一覧が載っています。いわば、ガラス張りの掲示板に名前が並ぶようなものです。事業主の一覧には、横浜市・川崎市を含む県内の事業所名や代表者名、返還を命じた額があります。
訓練実施者の一覧は4行(令和7・8年度公表分が各2行)です。「不正の内容」には、研修費を実質的に負担させずに助成金を申請させる仕組みに関与した、という趣旨が書かれています。返還を命じた額は840万円と約1,049万円で、「未然防止」の行もあります。
見積・契約の前に確認する10項目
筆者の見立てでは、確認は口頭ではなく、見積書・契約書・メールなどの書面で行うのが安全です。研修会社の選び方全般は内製か外注かの記事、費用の考え方は費用相場の記事にあります。
- 受講料以外のお金:返金・謝礼・協力金・紹介料・ギフト券・貸付など、研修会社や関連する会社から入るお金が、名目を問わずないか。
- 物とサービス:無料や割引で付くツール・システムがないか。入れるなら別の見積・契約・請求にします。いわば定食に高額な別の商品が付いてくる形で、助成されるのは研修の分だけです(p.21)。
- 「負担がかからない」という説明:「無料」「後から戻る」「利益が出る」といった説明が、資料・メール・営業の話にないか。資料は保管します(計画届で提出を求められることがあります)。
- 値段:助成金を使わない会社向けの価格と同じか。不支給のときの返金や値引きの約束がないか(p.33)。
- 申請を誰がやるか:報酬の有無と、受講料に代行の対価が含まれていないか(p.21)。
- 承諾書:研修会社が様式第12号(連帯して債務を負う、名称が公表される)に承諾できるか、前もって確認します(p.21)。
- 研修会社の過去:神奈川労働局のページの「不正受給に関与した訓練実施者」の一覧に名前がないか。不正に関与して5年間の不支給措置を受けている研修会社の訓練は対象外です(p.7)。載っていなくても、問題がない保証にはなりません。
- 自社との関係:代表者が同じ、親会社と子会社など、密接な関係にないか。その研修会社へ払う受講料は対象外です(p.32)。
- 保証の言葉:「必ず支給」「労働局認定」「専門家監修」は根拠にしません。厚労省は研修会社を認定・指定せず、「必ず支給される」と説明されても不支給になり得ると書いています(2024年11月のリーフレット)。
- 記録:見積書・契約書・請求書・領収書・振込記録・説明資料・メールを残します。関係書類は、支給が決まってから5年間保管します(p.8)。
断り方と相談先
持ちかけられたら、まず受け取らず、その場で承諾もしません。見積書・メール・資料を保管し、営業の説明は日付を付けてメモします。条件を書面で確かめて断り、労働局へ相談します。リーフレットは、勧誘を受けたら情報提供を求めています。
断りの文例(筆者の見立て)
「受講料は、当社が全額を負担する前提でお支払いします。返金・謝礼・協力金・無償のツールなど、負担を軽くする条件は受け取りません。助成金の有無で受講料が変わらないことを、見積書に残してください。」
横浜市・川崎市の事業所なら、相談先は神奈川労働局の神奈川助成金センター(横浜市中区。人材開発支援助成金の窓口)です。電話番号は、センターのご案内ページと、厚労省の「助成金のお問い合わせ先・申請先」で確かめられます。すでに受け取った場合や申請してしまった場合も、早めに相談します(下の質問4)。県内の補助金は神奈川の補助金ガイドにあります。
よくある質問
研修会社に「実質無料になります」と言われました。本当ですか。
厚労省は、助成金で研修費が無料になったり利益が出たりすることは制度上できないと書いています。受講料のほかにお金や物の動きがないかを書面で確かめ、迷ったら契約の前に労働局へ相談します。
AI研修とAIツールのセットは、助成の対象になりますか。
AI研修の費用は対象経費ですが、ツールの導入費用は対象経費ではありません(パンフレット p.21)。ツールの無償提供などの便宜を受けると、研修費の経費助成も対象外になります。
助成金を使うかどうかで値段が変わるのは、いけないのですか。
同じ内容の研修で助成金の有無だけで差をつけると、その差額は支給対象になりません(パンフレット p.33)。見積の前に、助成金を使わない会社向けの価格を尋ねます。
すでに謝礼やツールを受け取っていた場合は、どうなりますか。
リーフレットは、本来受けられない助成金を受給した場合は労働局に申告して速やかに返還するよう求めています。2026年8月3日以降の支給申請では、調査より前の自主申告で受給額・違約金・延滞金を速やかに返したとき、または受給前のときは、原則として公表されません。まず労働局に相談します。
研修会社が連帯して責任を負うなら、会社は安心ですか。
安心とは言えません。連帯して債務を負うのは不正に関与した場合の話で、会社の責任はなくなりません。代理人に申請書の作成を任せても、代理人の不正は会社の不正とみなされます(共通要領0205)。
まとめ
1|負担を軽くするお金や便宜は名目を問わず対象外 受け取る予定があっても、その研修の経費助成は全額対象外です。
2|隠して申請すると不正受給 返還・違約金・延滞金・5年間の不支給・公表の対象で、研修会社も連帯して責任を負います。
3|契約の前に書面で確かめ、迷ったら労働局へ 持ちかけられたら受け取らず、資料を保管して相談します。
当社のAI研修のページ(/ai-training/)にも、受講料の扱いと、当社が行わないことを載せています。助成の対象になるかどうかは、実際の企画・主催・実施内容をもとに労働局が判断しますので、ご検討の際は労働局にもご確認ください。
参照元・出典
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」(2026年10月9日確認)— 疎明書(様式第28号)の案内
- 詳細版パンフレット(令和8年8月3日版)— p.7〜9・21・32・33・42・46・51
- 支給要領(令和8年8月3日版)— 0501・0502・1002
- 雇用関係助成金 共通要領(令和8年4月8日現在)— 0205・0702・0801
- リーフレット「『訓練経費』は無料になりません」(令和8年4月8日版)
- リーフレット「不正受給した事業主は公表されます!」(令和8年8月3日版)
- リーフレット「訓練経費の負担の取扱いを令和6年11月5日から明確化」(2024年11月)
- 神奈川労働局「不正受給による公表事案」(10月9日確認)
- 神奈川労働局「神奈川助成金センターのご案内」(10月9日確認)
- 厚生労働省「助成金のお問い合わせ先・申請先」(10月9日確認)
- e-Gov法令検索(10月9日確認):雇用保険法施行規則(第140条の3・第140条の4・附則第35条)/雇用保険法(第63条)/社会保険労務士法(第27条)/刑法(第246条)
本記事は 2026年10月9日に確認した内容です。要件、様式、公表の取扱いは改正されることがあるため、契約の前に最新の資料と管轄の労働局でご確認ください。個別の判断は、労働局や社会保険労務士・弁護士などにご相談ください。