2026.10.10 (更新 2026.10.09) · 11分で読める AIツール比較

HENNGE AIとは|取締役2人・従業員ゼロ、実務はAIエージェントの新会社

HENNGE AI:人は取締役2人、実務はAIエージェント

クラウドセキュリティの HENNGE は2026年10月1日、子会社「HENNGE AI株式会社」を設立しました。人は代表取締役の今泉健氏と取締役の永留義己氏の2人だけで、従業員は置きません。開発・カスタマーサポート・マーケティング・バックオフィス(経理や総務などの事務)などの実務はAIエージェント(人の代わりに作業を進めるAI)が担い、営業と一部のバックオフィス業務は親会社に委託します。

結論を先に書くと、これは「人がいらない会社」の話ではなく、人の関わる範囲をどこまで絞れるかを確かめる実証実験です。取締役の2人は親会社の役員との兼任で、会社自身も「利点と同時に課題を洗い出す」としています。中小企業が持ち帰るべきなのは「ゼロ人」という数字ではなく、どの仕事をAIに任せ、どこに人を残したかという切り分けです。この記事では、HENNGE のプレスリリース・適時開示・代表の note(10月3日確認)をもとに整理します。

この記事を読むとわかること

  • HENNGE AI で何が発表されたか(公表されていないことも)
  • AIエージェントがどう働いているか、なぜ別会社にしたか
  • 提供予定のサービス「AI Gateway」の中身
  • 似た試みから分かっている教訓
  • 中小企業が持ち帰れる、AIと人の線引き

目次

HENNGE AIの役割分担 AIエージェントが担うのは開発、カスタマーサポート、マーケティング、バックオフィスなど。親会社のHENNGEに委託するのは営業と一部のバックオフィス。取締役は2人で、どちらも親会社の役員との兼任。下の帯に、人が担うのは取締役の責任で、営業は親会社に委託すると書いた図 HENNGE AIの役割分担 AIエージェントが担う 開発・サポート・マーケティング バックオフィスなど 親会社に委託 営業・一部のバックオフィス 取締役2人 どちらも親会社の役員と兼任 人が担うのは 取締役の責任(営業は親会社に委託) AI Lab OISHI

HENNGE AIで何が発表されたか

HENNGE のプレスリリースと同じ日の適時開示(上場会社が投資家向けに出す公式の知らせ)によると、基本情報は次のとおりです。HENNGE は、ログインの一元管理やメールのセキュリティを扱うクラウドサービス「HENNGE One」で知られる会社で、国内子会社の設立は今回が初めてです。

項目 内容
設立 2026年10月1日。所在地は親会社と同じ東京都渋谷区
役員 代表取締役 今泉健氏(HENNGE 執行役員)、取締役 永留義己氏(HENNGE 取締役副社長)
出資 HENNGE の100%子会社(代表の note)
事業 AI関連サービスと AI 管理ツールの開発・提供、コンサルティング
業績影響 親会社グループ全体の業績への影響は軽微の見込み(適時開示)

HENNGE のプレスリリース・適時開示(2026年10月1日)、代表の note(2026年10月3日確認)。

設立の主な目的は、後で紹介する「AI Gateway」というサービスを事業にすることです。そのうえでプレスリリースは、AIエージェントを最大限に活用してゼロから構築した場合に、どのような組織構造が最適かを自ら検証し、利点と同時に課題を洗い出すことも狙いに挙げています。いわば、会社そのものを自分たちで試す試作品にしたわけです。

HENNGE AIのAIエージェントはどう働いているか

代表の今泉氏は設立当日の noteで、中の様子を書いています。役割ごとのAIエージェントが議論し、役割を分担し、仕事を前に進めているとし、「これは比喩ではなく、今実際に動いているもの」と述べています。たとえば「取締役」の役割を持つAIエージェントに音声で進み具合を聞くと、わからないことは別のAIエージェントに Slack で問い合わせ、音声で答えを返すそうです。役割ごとのエージェントは増やしている途中だとしています。

一方で、まだ整っていない部分も率直に書かれています。決まりから外れた動きを見張って止める仕組みは「入れていこうと思っています」という段階で、本人も「正直、うまくいかないことのほうが多いでしょう」と書いています。

10月3日時点で、公表されていないのは次の4点です。

なぜ別会社にしたのか。今泉氏は、個人や部門がAIを使いこなすことと、組織そのものがAI前提で作られていることは「まったく別の問題」だと書いています。意思決定の流れや「この仕事に人が何人必要か」という前提は、既存の顧客や事業を抱えた会社では変えにくい。だから根本的な実験は別の場所でやる、という説明です。なお親会社の HENNGE 本体は採用を加速しているとも書いており、「AIで人を減らす」話とは方向が違います。

責任の面も押さえておきます。会社法は株式会社に取締役を置くことを求めており、法人は取締役になれません。AIエージェントがどれだけ実務を担っても、会社としての判断と責任を負うのは人の取締役と考えるのが自然です。

公表されていること、いないこと 公表されているのは、役割ごとのAIエージェントがSlackでやり取りして仕事を進めていること、親会社の100パーセント子会社であること、業績への影響は軽微の見込みであること。10月3日時点で公表されていないのは、使っているAIの製品名、人が最終判断する範囲、売上の目標、稼働中のAIエージェントの数。下の帯に、見張って止める仕組みはこれからと書いた図 公表されていること、いないこと 公表あり AI同士がSlackで やり取り 100%子会社 業績影響は軽微 未公表(10/3) AIの製品名 人が判断する範囲 売上目標・稼働数 見張って止める仕組みは これから入れる段階 AI Lab OISHI

提供予定の「AI Gateway」

HENNGE AI が事業にするのは、HENNGE が社内で使っている仕組みを基にした「AI Gateway」です。複数の生成AIを切り替えて使い、その利用状況を見える化して管理するサービスで、プレスリリースは5つの機能を計画しています。

提供はHENNGE の2027年度中(2027年9月まで)の予定で、料金や利用条件はサービス開始時に発表するとしています。対象にする企業の規模は、プレスリリースには書かれていません。背景としてプレスリリースは、IT部門以外の社員が自分でAIエージェントを作る場面が増える一方、管理と安全の確保、費用の膨張が壁になり、試験導入で止まる会社も多いと書いています。たとえるなら、社員それぞれが勝手にタクシーを呼ぶ状態から、会社のタクシーチケットで行き先と予算を管理する状態に変える仕組みです。試験導入から先に進めない悩みはPoCを抜け出すロードマップの記事で扱っています。

今泉氏は「AI活用の障壁であるガバナンスとコストの課題は、自ら実践しなければ本質が見えない」とコメントしています(ガバナンスは、社内の決まりと見張りのことです)。従業員を置かずAIエージェントが実務を担う会社を自分たちで運営すれば、どこで費用が膨らみ、何を禁止して何を任せるべきかが身をもって分かる。その知見ごと顧客に届ける、という組み立てです。社内でAIを使うときの点検項目はAIセキュリティのチェックリストにまとめています。

AI Gatewayで計画されている機能 1つ目は、人やグループごとに使えるAIを割り当てる。2つ目は、利用料を見える化して上限を決める。3つ目は、全社から個人まで権限を決める。4つ目は、HENNGE Oneのログイン基盤と連携する。5つ目の、人ではないIDの管理は将来構想。下の帯に、提供は2027年9月までの予定で料金は未公表と書いた図 AI Gatewayで計画されている機能 1 人ごとに使えるAIを割り当てる 2 利用料を見える化し上限を決める 3 全社から個人まで権限を決める 4 ログインの基盤と連携する 5 人ではないIDの管理(将来構想) 2027年9月までに提供予定・料金未公表 AI Lab OISHI

似た試みから分かっていること

AIエージェントに会社の仕事を任せる試みは、海外でも行われています。

Anthropic の「Project Vend」は、AIに社内の小さな売店の経営を任せた実験です。第1段階(2025年6月公開)では、原価を割った販売や値引きのしすぎで赤字になりました。第2段階(2025年12月公開)では新しいモデルと道具(顧客管理や調査の機能)、手順の徹底に加え、AIの「CEO役」を置いて、エージェント同士が Slack で報告し合う形にしました。

赤字の週はほぼなくなりましたが、Anthropic は改善の主因は手順と道具で、CEO役は「あまり助けにならず、むしろ邪魔だったかもしれない」と書いています。上司役も同じモデルなので同じ弱点を抱え、法令に触れかねない取引を人が指摘するまで止められなかった場面もありました。

結論は「『できる』と『完全に頼れる』の差はまだ大きい」というものです。役割ごとのエージェントが Slack でやり取りするという点で、HENNGE AI の形とよく似ています。

カーネギーメロン大学などの研究「TheAgentCompany」では、架空のソフトウェア会社でAIエージェントに実務をさせたところ、最も成績の良いエージェントでも自律的に終えられた作業は30%でした。ただし2025年時点の研究で、今の最新のAIの数字ではありません。

Anthropic のダリオ・アモデイCEOは2025年5月、「1人で10億ドル規模の会社」が早ければ2026年に現れうると話したと報じられています(米 Inc. 誌)。Inc. は、その候補を営業担当をあまり必要としない事業と伝えています。HENNGE AI は反対に、営業を親会社の側に残しています。線の引き方が対照的です。

似た試みの教訓 AnthropicのProject Vendは、AIに売店を経営させ、第1段階は赤字、第2段階は新しいモデルと道具、手順の徹底で赤字の週がほぼなくなった。AIの上司役は助けにならず、同じ弱点を抱えた。TheAgentCompanyは、2025年時点の研究で、最も良いAIでも自律的に終えた作業は30パーセント。下の帯に、お金と法令の判断には人の確認が要ると書いた図 似た試みの教訓 Project Vend(Anthropic) 手順と道具の見直しで赤字の週がほぼ解消 AIの上司役も同じ弱点を抱えた TheAgentCompany(研究) 自律的に終えた作業は30% (2025年時点の研究) お金と法令の判断には 人の確認が要る AI Lab OISHI

中小企業が持ち帰れること

HENNGE AI は上場企業の実験ですが、中小企業にもそのまま使える考え方があります。4つに整理します。

1|「ゼロ人」ではなく「切り分け」を見る。取締役は親会社の役員との兼任で、営業と一部の事務は親会社が担います。注目すべきは人数ではなく、開発・サポート・マーケティングはAIに、営業は親会社に、会社としての責任は人の取締役にという線の引き方です。

2|人に残すのは「信頼」と「責任」。営業を親会社の側に残した具体的な理由は書かれていません(プレスリリースは「人間とAIの協働モデル」を構築しつつ委託すると述べるにとどまります)。ただ取締役の永留氏は、設立前の7月に親会社の営業部門の取り組みを書いたnoteで、メールの下書きはAIに任せ、最終確認と送信は人が行う形を紹介しています。そのうえで、信頼関係を築くことはAIにはできず、AIの示唆を鵜呑みにして人が考えるのをやめるのは危うい、と書いています。言い換えれば、手を動かす仕事はAIに渡しても、お客様との関係と最後の判断は人が持つ、という考え方です。

3|「見張って止める仕組み」を先に考える。HENNGE AI でも監視の仕組みはこれからで、Project Vend ではAIの上司役を置いても同じ弱点を共有しました。お金を動かす、法令に関わる、お客様と約束するという場面には、人の確認を関所として置くのが現実的です。たとえば、返金や値引き、納期の約束をお客様に返事する前に、担当者の承認を挟む形です。たとえるなら、車のブレーキは、走り出す前に効くかどうかを確かめておくものです。

4|「人を減らす」ではなく「人を回す」。親会社は採用を加速しています。AIで空いた時間をどこに振り向けるかを決めておくことが、少人数の会社ほど効いてきます。少人数とAIで仕事を回す形はひとりAIチームの記事で、AIエージェントの入れ方は導入設計の記事で扱っています。

筆者の見立てでは、この実験の価値は成功するかどうかより、どこでつまずいたかが公開されることにあります。今泉氏は「何を禁止して、何を任せるべきか」を顧客に渡したいと書いています。続報で見たいのは3点です。見張って止める仕組みが入ったか、人が判断を引き取った場面が公表されるか、AIの運用費がどこで膨らんだか。それが出れば、中小企業がAIに仕事を渡すときの具体的な目安になるはずです。AI活用で差がつくのは道具より組織だという話は、日米のAI活用の差の記事でも書きました。各社のAIエージェントの導入状況はAIエージェント導入の現在地にまとめています。

中小企業が持ち帰れる4つ 1は、ゼロ人ではなく切り分けを見る。2は、人に残すのは信頼と責任。3は、見張って止める仕組みを先に考える。4は、人を減らすではなく人を回す。下の帯に、お金・法令・お客様との約束には人の関所を置くと書いた図 中小企業が持ち帰れる4つ 1 人数ではなく切り分けを見る 2 人に残すのは信頼と責任 3 止める仕組みを先に考える 4 人を減らすより、人を回す お金・法令・お客様との約束には 人の関所を置く AI Lab OISHI

よくある質問

HENNGE AI とはどんな会社ですか。

HENNGE が2026年10月1日に設立した子会社です。人は取締役2人だけで、開発・サポート・マーケティング・バックオフィスなどはAIエージェントが担います。営業と一部の事務は親会社に委託します。

本当に人間2人だけで会社を回しているのですか。

そうとは言えません。取締役の2人は親会社の役員との兼任で、営業と一部の事務は親会社が担います。AIに任せる範囲を広げる実証実験です。

どのAIを使っているのですか。

10月3日時点で、使っているAIの製品名は公表されていません。代表の note には、役割ごとのAIエージェントが Slack でやり取りしながら仕事を進めているとあります。

AI Gateway とは何ですか。

複数の生成AIを切り替えて使い、利用状況や費用を見える化して管理するサービスです。2027年9月までに提供予定で、料金は開始時に発表するとしています。

中小企業はこの例から何を学べますか。

人をゼロにすることではなく、どの仕事をAIに任せ、どこに人を残したかという切り分けです。お金・法令・お客様との約束に関わる判断には、人の確認を置くのが参考になります。

まとめ

1|人は取締役2人、実務はAIエージェント HENNGE が10月1日に設立。開発・サポート・マーケティングなどはAI、営業と一部の事務は親会社が担います。

2|完成形ではなく実験 取締役は兼任で、見張って止める仕組みはこれから。使っているAIや売上目標は公表されていません。

3|事業の本体は AI Gateway 複数のAIの使い分けと費用の管理をまとめるサービスで、2027年9月までに提供予定です。

4|持ち帰るのは「線の引き方」 手を動かす仕事はAIに、信頼と最終責任は人に。お金・法令・お客様との約束には人の関所を置くことから始められます。

参照元・出典

本記事の内容は 2026年10月3日に確認した時点のものです。設立直後の会社のため、体制やサービスの内容は変わることがあります。最新の情報は HENNGE の公式発表でご確認ください。

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