2026.08.20 · 19分で読める

中小企業のAI導入率20.4%の中身|全社で使っている会社は3.6%という数字

数字を1つ、先に置きます。20.4%。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」で、AIを導入していると答えた中小企業の割合です。ニュースやまとめ記事で「中小企業の5社に1社がAIを導入」と紹介されているのは、この数字を指しています。

ただしこの20.4%には、引用される場面でこぼれ落ちやすい前提が2つあります。1つは聞いた時期です。資料の公表は2026年3月ですが、実際に回答を集めたのは令和7年11月17日から12月12日、つまり2025年の11月から12月にかけてでした。もう1つは内訳です。20.4%のうち「全社的に導入している」と答えたのは3.6%にとどまり、残る16.8%は「一部の業務で導入している」でした。

この記事は、その資料を直接読み、数字を業務分野別まで下ろして整理したものです。どのAIツールを選ぶかという話には踏み込みません。いま手元にある一次資料が実際に何を言っているのか、そこだけを扱います。

先に、3つだけ押さえます

分母|対象は全国の中小企業10,000社ですが、有効回収数は1,668、有効回収率は16.7%です。20.4%は、その1,668社の中での割合になります。

内訳|全社的に導入しているのは3.6%。導入したと答えた会社の約8割は「一部の業務で」の段階にとどまっています。

不足|社内でいちばん足りていないのは情報でした。成功事例や活用事例の情報が83.3%、適切なベンダーや製品を選定する情報が79.8%です。

20.4%は、いつ・誰が・どう聞いた数字か

統計を仕事の判断に使うとき、最初に見るのは数字そのものではなく、その数字の素性です。誰が、いつ、何社に、どうやって聞いたのか。ここを飛ばして割合だけを持ち出すと、会議で「本当にそうなの」と聞かれた瞬間に答えられなくなります。

今回の資料は、中小機構が公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」の調査結果ポイントです。調査方法はWebアンケート、調査対象は中小企業基本法の定義に基づく全国の中小企業10,000社、有効回収数は1,668、有効回収率は16.7%と記載されています。実施主体は中小機構の総合情報戦略課で、業務委託先は株式会社東京商工リサーチです。

ここでいちばん見落とされているのが調査期間です。原文には令和7年11月17日から12月12日と書かれています。西暦に直すと2025年11月17日から12月12日で、資料の公表はその約3か月後の2026年3月でした。二次的なまとめ記事には、調査期間に触れず公表月だけを書いているものが多く、実際に回答が集まったのが2025年の暮れだという点は伝わりにくくなっています。

3か月のずれは、AIの分野では小さくありません。たとえるなら、年末に撮った集合写真を春になって配っているようなものです。写真そのものは正確でも、その間に入れ替わった人は写っていません。その3か月に何が変わったかは、この資料からは分かりません。だからこの数字は、いまの中小企業ではなく2025年末の中小企業を写した1枚として読むのが正確です。この記事でも、以降の数字はすべて「2026年3月公表・調査期間は2025年11〜12月」の前提で読んでいきます。

調査対象の業種構成は次のとおりです。配布数・有効回収数・有効回収率が業種ごとに公開されているのは、この資料の実務的にありがたい点で、自社の業種の回答がどれくらい含まれているかを確かめられます。

業種 配布数 有効回収数 有効回収率
建設業 1,360 249 18.3%
製造業 1,074 197 18.3%
情報通信業 176 33 18.8%
運輸業 208 31 14.9%
卸売業 648 124 19.1%
小売業 1,684 259 15.4%
不動産業、物品賃貸業 1,036 159 15.3%
学術研究、専門・技術サービス業 650 135 20.8%
宿泊業、飲食サービス業 1,358 170 12.5%
生活関連サービス業、娯楽業 1,058 176 16.6%
教育、学習支援業 302 61 20.2%
その他 446 74 16.6%
10,000 1,668 16.7%

自社の業種の有効回収率が低いほど、その業種の実感と数字のずれは大きくなりやすい、と幅を持って見ておくと安全です。

資料の脚注では、この調査でいうAIの範囲は「AI技術を用いたサービス(画像認識、音声認識、生成AIなど)」、ITの範囲は「業務効率化や生産性向上を目的としたITツール・サービス(RPAなど)」と定義されています。RPAは、人がパソコン上で繰り返している操作を自動で行わせる仕組みのことです。つまりAIには生成AI以外も含まれており、この点は後半の数字を読むときに効いてきます。

分母は10,000社ではない|有効回収1,668社という前提

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。「中小企業の20.4%がAIを導入」という一文だけを見ると、日本中の中小企業を数えたら5社に1社がAIを使っている、と読めてしまいます。ところが実際の作りはそうではありません。

20.4%の分母を3段階で確かめる図 調査票を配ったのが10000社、実際に回答が返ってきた有効回収数が1668社で有効回収率16.7パーセント、その1668社の中でAIを導入していると答えたのが20.4パーセントという3段階を階段状に示した図。10000社の20.4パーセントという意味ではないことを示している 20.4%の分母を確かめる 調査票を配ったのは 10,000社 全国の中小企業・Webアンケート 答えが返ってきたのは 1,668 有効回収率 16.7% その中で導入済み 20.4% 全社的に3.6%+一部で16.8% 「10,000社の20.4%」ではない AI Lab OISHI

調査票が届いたのは10,000社ですが、回答が返ってきたのは1,668社です。有効回収率にすると16.7%で、おおよそ6社に1社しか答えていません。20.4%という割合は、この1,668社の中で計算されたものです。

これは調査の欠陥ではありません。企業向けのWebアンケートで回収率が2割前後になるのは、行政の統計でもよくある水準です。ただし数字の性格として、そのテーマに関心のある会社ほど答えやすいという傾向は一般に働きます。AIの話が社内でまったく出ていない会社と、去年から試している会社と、どちらがAIの調査票に時間を割くか。答えは想像がつきます。

言い換えると、20.4%は「日本の中小企業の導入率」ではなく、「AIをテーマにしたアンケートに答えた1,668社の中での導入率」です。配布先は東京商工リサーチの企業情報データから無作為に抽出されたと詳細報告書にあり、偏りが生まれうるのは配り方ではなく、誰が答えて誰が答えなかったかのほうです。ちょうど、全員に配った社内アンケートで、その話題に関心のある人から先に返事が返ってくるのと同じ構図です。実際の導入率がこれより高いのか低いのかを、この資料だけで判定することはできません。

だからこの数字が使えないという話にはなりません。むしろ逆で、業種ごとの配布数と回収数まで公開されているからこそ、こうした読み方ができます。実務では、次のように言い換えて使うと安全です。

後者は長いのですが、社内の稟議書や金融機関への説明資料では、この長さがそのまま信用になります。出典と条件が書いてある数字は、あとから誰でも同じ手順で確かめられるためです。

20.4%の中身|全社で使っている会社は3.6%

次に内訳です。資料の図表2(n=1,647)は、AIの導入状況を4つに分けて示しています。ここから先の図や表に出てくるnは、その設問に答えた会社の数です。設問ごとに答えていない会社があるため、有効回収の1,668社とも、図どうしでも少しずつ違います。

中小企業のAI導入状況の内訳 全社的に導入している3.6パーセント、一部の業務で導入している16.8パーセント、導入を予定または検討中18.6パーセント、導入予定はない61.0パーセントという4区分を横一本の帯グラフで示した図。導入済みと答えた会社の約8割は一部の業務での導入であることを示している AI導入状況の内訳(n=1,647) n=この設問に答えた会社の数 全社的に導入 3.6% 16.8% 18.6% 61.0% 全社的に導入している 3.6% 一部の業務で導入している 16.8% 導入を予定・検討中 18.6% 導入予定はない 61.0% 導入した会社の約8割は一部導入 AI Lab OISHI

全社的に導入しているのが3.6%、一部の業務で導入しているのが16.8%、この2つを足した20.4%が「導入済み」です。導入を予定・検討中が18.6%で、資料本文は「導入を検討している企業(18.6%)と合わせると、全体の39.0%がAIの導入に前向きな結果を示している」と述べています。そして残りの61.0%は、「導入予定はない」と答えた企業です。分類できなかった残りではなく、いま入れる予定はないとはっきり回答した6割です。同じ調査の詳細報告書も、まだ導入していない79.6%のうち7割以上が「導入予定はない」だったと記しています。

ここで注目したいのは、導入済み20.4%の中での比率です。全社的に導入している3.6%に対し、一部の業務でとどまっているのが16.8%。つまり導入したと答えた会社のうち、およそ8割はまだ部分導入だということになります。

これは、建物の空調工事に例えるとイメージがつかみやすくなります。全社導入は建物全体に空調を入れた状態、部分導入は会議室に1台だけエアコンを付けた状態です。どちらも「空調を入れました」には違いありませんが、経費の規模も社内の運用ルールも、まったく別の話になります。

この見方は、経営判断としても実務としても意味があります。「もう2割が導入している、うちは遅れている」と焦るより、「全社で回している会社はまだ3.6%しかない」と捉えるほうが、実態に近いためです。多くの会社にとって、AIはまだ試験導入の段階を抜けていません。

どこから入っているか|先に事務、あとから現場

次は、どの部門から入っているかです。資料の図表3は、導入済み企業を対象に、業務分野別のAI導入率を示しています。

業務分野別のAI導入率 導入済み企業を対象とした業務分野別の導入率を横棒で示した図。総務・管理部門が68.3パーセント、営業・販売・サービス部門が60.3パーセント、経営・企画部門が58.5パーセント、製造・生産部門が34.9パーセントで、バックオフィスが先行し製造現場が最も低いことを示している 業務分野別のAI導入率 導入済み企業を対象とした集計 総務・管理部門 68.3% 営業・販売・サービス部門 60.3% 経営・企画部門 58.5% 製造・生産部門 34.9% 先に入るのは事務、あとが現場 出典: 中小機構 実態調査 図表3 AI Lab OISHI

いちばん高いのが総務・管理部門の68.3%、次いで営業・販売・サービス部門の60.3%、経営・企画部門の58.5%と続き、製造・生産部門は34.9%でした。上位3つのうち最も低い数字と比べても、製造・生産だけが20ポイント以上低い位置にあります。

資料の脚注には、業務分野の定義も書かれています。総務・管理はバックオフィスに関する業務分野、営業・販売・サービスは顧客対応やフロントに関する業務分野、経営・企画は経営の意思決定に関する業務分野、製造・生産は開発・調達・在庫管理等を含む業務分野です。

この並びは、AIが事務所の側から入ってきていることを示しています。照明の交換に例えると、事務所の蛍光灯は先に替わり、工場のラインの照明は最後まで残る。同じ建物でも、止めやすい場所から手を付けるためです。

理由はいくつか考えられます。バックオフィスの仕事は成果物が文章や表であり、AIの出力をそのまま人が読んで確かめられます。間違いに気づきやすく、間違えたときの被害も小さい。一方で製造・生産の現場は、設備・工程・安全基準と結びついているため、途中で止めにくく、試すこと自体の負担が大きくなります。

社内で「AIをどこから始めるか」を議論しているなら、無理に現場から始めなくても多くの会社は事務の側から入っている、という事実を並べられます。具体的にどんな作業から手を付けられるかは、1円もかけないAI入門|無料枠で仕事を半分にする使い方25選に業務ごとの例を並べてあります。費用をかけずに試せる範囲から確かめると、判断が早くなります。

導入済み企業の82.6%が生成AI

導入済みの322社に、どのAIサービスを入れているかを聞いた結果(図表4)が次のグラフです。1社が複数を選べる設問のため、合計は100%を超えます。

導入済みのAIサービスの内訳 導入済み企業322社への複数回答で、生成AIが82.6パーセント、音声認識・音声対話AIが29.8パーセント、画像認識AIが11.2パーセント、需要予測AIが8.1パーセント、その他が7.5パーセント、異常検知AIが4.3パーセントという結果を横棒で示した図。生成AIが突出していることを示している 導入済みのAIサービス 導入済み企業 n=322・複数回答 生成AI 82.6% 音声認識・音声対話AI 29.8% 画像認識AI 11.2% 需要予測AI 8.1% その他 7.5% 異常検知AI 4.3% AI導入の中身は、ほぼ生成AI AI Lab OISHI

生成AIが82.6%で、2位の音声認識・音声対話AI29.8%を大きく引き離しています。

この調査でいうAIには画像認識も音声認識も含まれています。それでも導入済み企業の8割超が生成AIを挙げたということは、いま中小企業で起きている「AI導入」の実体が、ほぼ文章まわりの道具の話だということです。世の中で語られるAIの幅と、現場に入っているAIの幅は、いまのところかなり違います。

この偏りは、前の節の部門別の数字とも整合します。総務・管理や営業・販売のような、文書と連絡が中心の仕事から入っているのであれば、選ばれる道具が生成AIに寄るのは自然です。逆に言うと、需要予測や異常検知のように、設備や在庫のデータを扱うAIは、中小企業ではまだ広がっていないことになります。

どの生成AIを業務のどこに当てるかは、それだけで別の判断になります。用途ごとの向き不向きは中小企業のAIツール選びの3軸|ChatGPT・Claude・Geminiの業務別設計に整理してあるので、この記事では立ち入りません。

何のために入れて、何が効いたか

導入の目的(図表5・n=331)は、次のとおりです。こちらも複数回答です。

AIの導入目的 回答割合
業務効率化/作業時間の短縮 87.0%
品質向上 32.3%
人手不足対応 31.7%
付加価値創出 24.5%
エラー・ミスの軽減 24.2%
売上拡大・顧客獲得 22.1%
コスト削減 14.8%
その他 2.7%

中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」図表5(2026年3月公表・調査期間は2025年11〜12月)

業務効率化・作業時間の短縮が87.0%で突出しており、資料本文も1位と2位で50ポイント以上の差があると指摘しています。この並びを見ると、AIはいまのところ「売上を伸ばす道具」より「時間を空ける道具」として入っていることが分かります。

図表6(n=331)では、売上推移別に導入目的を比べており、「品質向上」を挙げた割合は増収傾向の企業で38.6%、横ばいで29.0%、減収傾向で26.4%でした。増収している会社ほど、効率だけでなく品質にも目を向けている、という読み方ができます。

効果として挙げられたもの

導入後の効果(図表7)は、AI導入企業327社とIT導入企業900社を並べて聞いています。資料本文で明記されている項目を抜き出したのが次の表です。

効果 AI(n=327) IT(n=900)
業務効率化/作業時間の短縮 83.2% 89.1%
人手不足対応 33.9% 32.3%
品質向上 30.6%
付加価値創出 22.3% 7.4%

中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」図表7より、資料本文に明記されている項目を抜粋(2026年3月公表・調査期間は2025年11〜12月)。表中の「—」は、本記事では扱わないと判断した項目です。

効率化の効果はITのほうが高く出ています。長年使われてきた業務システムのほうが、時間短縮という点では実績があるということです。差がはっきり出たのは付加価値創出で、AIが22.3%、ITが7.4%と約15ポイントの開きがありました。資料は付加価値創出の中身までは示していませんが、新しい商品やサービスが作れた、これまで断っていた仕事を受けられるようになった、といった方向の話です。資料本文も、AIが従来のIT活用より高い評価を得ていると述べています。

この1行は、経営会議で使える材料です。AIを「人件費を削る道具」としてだけ説明すると、社内の反発を招きやすくなります。公的な調査で、効率化以外の効果が数字として出ていることを示せるのは、社内の合意形成では意外に効きます。

ただし読み方には条件があります。これは導入した企業に効果を聞いた数字です。導入をやめた企業や、効果が出ていない企業がどれだけいるかは、この資料からは分かりません。いわば、走り終えた人だけに完走の感想を聞いたようなもので、途中で棄権した人の声は入っていません。

足りないのは資金だけではない|選ぶ材料が79.8%で不足

この調査でいちばん実務的な示唆があるのは、最後のパートです。

不足している情報と必要な公的支援 不足している情報の第1位が成功事例や活用事例の情報で83.3パーセント、第2位が適切なベンダーや製品を選定する情報で79.8パーセント。必要な公的支援は導入費用などの助成が77.9パーセント、導入事例などの情報提供が70.5パーセント。足りないのは資金だけでなく選ぶための材料であることを示している。左側の不足している情報と右側の必要な公的支援は別々の設問であり、左右の数字を横に並べて比較することはできない 足りないものは、何か 不足している情報 必要な公的支援 成功事例・活用事例の情報 83.3% ベンダーや製品を選ぶ情報 79.8% 導入費用などの助成 77.9% 導入事例などの情報提供 70.5% 左と右は別々の設問です 横に並べて比べないでください 足りないのはお金だけではない 選ぶための材料が足りていない 出典: 中小機構 実態調査 図表8・図表9 AI Lab OISHI

まず社内の理解度(図表8)です。AI・IT導入の必要性が社内で理解されているかという問いに、「とても当てはまる」が10.0%、「やや当てはまる」が35.1%で、合わせて45.1%でした。半数に届いていません。

そのうえで、不足している情報の第1位は「成功事例や活用事例などの情報」で83.3%、第2位が「適切なベンダーや製品を選定する情報」で79.8%でした。必要な公的支援(図表9)でも、導入費用などの助成が77.9%と最多である一方、導入事例などの情報提供が70.5%で続いています。

この並びは、現場感覚とよく合います。困っているのは「予算が取れない」だけではなく、「何を、誰から、いくらで買えばいいのか分からない」なのです。ちょうど、車を買う予算はあるのに、どの型が自社の使い方に合うのかを教えてくれる人がいない状態のようなものです。

8割の会社が「選ぶための情報が足りない」と答えている領域では、情報の出し手と買い手の距離がそのまま力関係になります。だからこそ、提案を受ける側が最低限の判断軸を持っておく価値があります。パートナー候補をどう見るかは中小企業のAI導入パートナーの選び方|失敗しない3つの判断軸に、外部のAIサービスに自社のデータを預けるときの確認点はAIベンダーのセキュリティを見極める設計にまとめてあります。

中小機構は同種のアンケート調査を継続的に公表しています。アンケート調査の一覧ページを見ておくと、続報が出たときに気づけます。

この数字を自社に当てはめる3つの読み方

ここまでの数字を、判断に使える形に落とします。

読み方1|比べる相手は「20.4%」ではなく「3.6%」

自社の位置を測るなら、導入したかどうかではなく、どの範囲まで広げたかで比べたほうが実態に合います。

読み方2|自社は、4つの区分のどこにいるか

図表2の4区分は、そのまま自己診断に使えます。御社はどこにいるでしょうか。次の一歩は、区分ごとに変わります。

読み方3|始める場所は、資料が示している

書類と連絡の仕事から入り、生成AIで試す。事務が先行し(総務・管理68.3%)、道具は生成AIに寄る(82.6%)。2つの数字が同じ方向を指しています。設備や工程に手を入れるより、止めやすく、やり直しも効きます。

ただし、社内で試す範囲を広げる前に、入力してよい情報の線引きだけは先に決めておく必要があります。ルールの作り方は生成AIの社内ガイドライン作成ガイドに手順としてまとめました。全社導入が3.6%にとどまっている背景には、この整備が追いついていない事情も含まれているとみられます。

私たちの見解|20.4%より3.6%のほうが使える数字です

3点だけ、私たちの考えを書きます。

1つ目は、経営判断に効くのは20.4%ではなく3.6%だということ。導入したかどうかの2択は、実務ではほとんど情報量がありません。試しに1部署で使ってみた会社と、全社の業務手順にAIを組み込んだ会社が、同じ「導入済み」に入っているためです。自社の現在地を測るなら、3.6%という数字のほうがはるかに役に立ちます。

2つ目は、求められているのが資金だけではなかったこと。公的支援の要望は助成が77.9%で最多ですが、情報提供も70.5%が必要と答えています。どちらかではなく、両方が要るという結果です。社内で不足している情報としても、成功事例83.3%、ベンダー・製品を選ぶ情報79.8%が挙がっており、AIの導入が技術の問題ではなく選択の問題になっていることを示しています。道具はすでに手の届く価格で並んでいて、どれを自社のどの仕事に当てるかで結果が分かれる段階です。私たちが「どのAIを使えばいいか」という問いに答える仕事を選んでいるのも、この一点が塞がっているためです。

3つ目は、統計の使い方そのものについて。今回のように配布数・回収数・調査期間まで公開されている資料は、実は多くありません。回収率16.7%という数字を出して、そのうえで結果を公表している点は、資料としての誠実さだと受け止めています。読む側がやるべきことは、その前提を落とさずに引用することだけです。

自社の業務のどこにAIを当てるか、その判断材料が足りないと感じている場合は、無料相談で一緒に整理させてください。ご用意いただきたいのは、いちばん時間を取られている作業3つと、その作業に関わっている人数だけです。当社の料金体系は料金ページに公開しています。

まとめ

統計は、自社を測る物差しとしてだけ使うと窮屈になります。この調査から取り出せるいちばん実用的な情報は、導入率の高低ではなく、先に入っている会社がどこから手を付けたかという順番のほうです。総務から始め、生成AIで試し、効率化から効果を出している。この道筋が公的な資料で確認できることのほうが、20.4%という見出しの数字より長く使えます。

よくある質問

Q1. 「中小企業の20.4%がAIを導入している」と、そのまま言ってよいのですか?

調査資料の書き方に沿うなら、「アンケートに答えた1,668社のうち20.4%」が正確な言い方になります。この調査は全国の中小企業10,000社を対象としたWebアンケートで、有効回収数は1,668、有効回収率は16.7%と資料に記載されています。全数調査ではないため、日本の中小企業全体の導入率がちょうど20.4%であることを示したものではありません。また一般に、テーマに関心のある企業ほどアンケートに答えやすいという性質があります。これは調査の信頼性の問題ではなく、数字の性格の問題です。社内資料や提案書に引用するときは、調査主体・調査期間・有効回収数まで併記しておくと、後から出典をたどれる形になります。

Q2. うちはまだ導入していません。同業に比べて遅れているのでしょうか?

この調査の数字だけを見るかぎり、遅れていると決めつけられる状況ではありません。全社的に導入していると答えた企業は3.6%で、一部の業務で導入している16.8%と合わせて20.4%です。導入を予定・検討中の18.6%を足しても39.0%で、残る61.0%は「導入予定はない」と回答しています。ただし業務部門別に見ると、導入済み企業では総務・管理部門が68.3%、営業・販売・サービス部門が60.3%と、バックオフィスから入っている傾向が出ています。周囲の状況を知りたい場合は、業界全体の導入率よりも、この部門別の数字のほうが自社の判断材料になります。

Q3. どの部門から始めるのが現実的ですか?

調査結果に沿うなら、バックオフィスからです。導入済み企業を対象とした集計では、総務・管理部門68.3%、営業・販売・サービス部門60.3%、経営・企画部門58.5%に対し、製造・生産部門は34.9%でした。資料の脚注では、総務・管理はバックオフィスに関する業務分野、製造・生産は開発・調達・在庫管理等を含む業務分野と定義されています。導入済みのAIサービスも生成AIが82.6%で突出しており、まず文章まわりの業務から試している姿が読み取れます。設備や工程に手を入れる話より先に、書類と連絡の仕事から入るほうが、投資も止めやすくなります。

Q4. 導入した会社では、実際に効果が出ているのですか?

資料では導入効果として、業務効率化・作業時間の短縮を挙げた企業がAIで83.2%、ITで89.1%と報告されています。目を引くのは付加価値創出で、AIが22.3%、ITが7.4%と約15ポイントの差がついています。資料本文も、AIが従来のIT活用より高い評価を得ていると述べています。ただし、この数字は導入した企業に効果を尋ねたものです。導入をやめた企業や、効果が出ないまま答えていない企業がどれだけいるかは、この資料からは分かりません。効果の数字を読むときは、導入した企業の中での割合という前提を外さないようにしてください。

参照元・出典

本記事の数値はすべて、中小機構が公表した調査結果資料の記載にもとづきます。資料の公表は2026年3月、調査期間は令和7年11月17日〜12月12日(2025年11〜12月)です。資料の性質上、公表後に更新版が出る可能性があるため、引用する前に下記リンク先の最新の記載をご確認ください。行政機関・独立行政法人の公表資料を一次として扱っています。

本記事では、20.4%の中身を読むという目的に必要がないと判断した項目(図表7の一部項目、図表9の3位以下、図表3の各分野の回答数)は掲載していません。いずれも資料には記載がありますが、本記事の論旨には使いませんでした。

一次ソース(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)

調査の実施体制

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